「うちのクリニックの患者数は、他院と比べて多いのか少ないのか」。開業後の院長先生から、そうした疑問をよく耳にします。目の前の診療に追われていると、自院の患者数を客観的な基準と照らし合わせる機会はなかなか持てないものです。
平均患者数という物差しを知っておくことは、経営状態を振り返り、次の一手を考えるうえで欠かせない視点です。診療科目や地域、クリニックの規模によって目安となる数字は大きく異なります。
本記事では、クリニックの平均患者数がどのように決まるのかという基本の考え方から、科目別の目安、地域による違い、規模との関係、そして患者数を高めるためのポイントまで、公的な統計データをもとに整理していきます。
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クリニックの平均患者数は、診療科目や立地、規模、診療時間、医師やスタッフの人数など、複数の要因が組み合わさって決まります。単純に「患者数が多いほど良い」というものではなく、それぞれのクリニックが提供できる診療の質と両立できる範囲の患者数が、経営上の目安となります。
厚生労働省の統計をもとにした試算では、全国の診療所における1日あたりの平均外来患者数はおおむね40人前後とされています。ただし、これはあくまで全体の平均であり、100人を超える患者が来院するクリニックもあれば、10人台にとどまるクリニックもあります。
診療科目による差はとりわけ大きく、同じ40人前後という目安であっても、診療内容や患者1人あたりにかかる時間が異なれば、実際に必要とされる患者数の水準も変わってきます。さらに、都市部と地方では診療所の分布密度が異なり、施設あたりの競合状況にも差が生じます。規模の面でも、診察室や検査スペースの数が多いクリニックほど、同時に対応できる患者数の上限が高くなる傾向があります。これらの要因を踏まえたうえで、自院にとっての現実的な目安を考えることが重要です。
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診療科目によって、1日あたりの平均患者数には大きな差があります。独立行政法人福祉医療機構が公表した個人立の一般診療所(無床)の経営状況に関する調査結果をもとに、代表的な診療科目の患者数を整理すると、次のようになります。
| 診療科目 | 1日あたりの平均外来患者数 |
|---|---|
| 内科 | 約38.2人 |
| 小児科 | 約42.7人 |
| 皮膚科 | 約58.7人 |
| 整形外科 | 約75.5人 |
| 耳鼻咽喉科 | 約53.3人 |
| 精神科 | 約35人 |
| 眼科 | 約50人 |
内科、小児科、皮膚科、整形外科、耳鼻咽喉科の数値は、同機構が2020年度に取りまとめた個人立診療所の経営状況調査にもとづくもので、いずれも一定のサンプル数をともなう調査結果です。整形外科は1回あたりの診療時間が比較的短いリハビリ通院の患者が多いことなどから、他科目に比べて高い水準になっている傾向があります。
一方、精神科と眼科の数値は、業界向けの経営コンサルティング記事などで紹介されている目安の数字であり、内科や整形外科ほど厳密な調査に基づくものではない点には留意が必要です。精神科はカウンセリングを含む診療が多く1人あたりの診療時間が長くなりやすいこと、眼科は検査を中心とした短時間の受診が多いことが、それぞれの水準に影響していると考えられます。診療科目ごとの特性を理解したうえで、自院の状況と照らし合わせることが大切です。
同じ診療科目であっても、単科で診療を行うクリニックと、複数の医師が在籍する規模の大きなクリニックとでは、対応できる患者数の上限が大きく異なります。表の数値はあくまで平均的な水準であり、個々のクリニックの体制や地域性によって実際の患者数には幅があることを踏まえたうえで、目安として活用することをおすすめします。
都道府県ごとに「1施設あたりの平均患者数」を直接まとめた公的な統計は見当たりませんが、地域による診療所の集積度合いを知る手がかりとして、人口10万人あたりの一般診療所数を確認することができます。厚生労働省の医療施設動態調査(2018年10月時点)をもとに、代表的な都道府県を整理すると、次のようになります。
| 都道府県 | 人口10万人あたりの一般診療所数 |
|---|---|
| 和歌山県 | 約109.5施設 |
| 東京都 | 約96.4施設 |
| 大阪府 | 約93.4施設 |
| 福岡県 | 約89.5施設 |
| 神奈川県 | 約72.1施設 |
| 愛知県 | 約69.4施設 |
| 北海道 | 約62.3施設 |
| 沖縄県 | 約59.6施設 |
| 千葉県 | 約60.0施設 |
| 埼玉県 | 約57.1施設 |
この数値は、人口に対してどれだけ多くの診療所が存在しているかを示す指標であり、1施設あたりの平均患者数そのものを表すものではありません。ただし、一般的な傾向として、人口あたりの診療所数が少ない地域ほど1施設が受け持つ患者の母数は相対的に大きくなりやすく、逆に診療所が密集する地域では競合が多く、1施設あたりの患者数は分散しやすいと考えられます。
和歌山県のように診療所数が多い地域では、患者にとって選択肢が豊富である一方、クリニック側にとっては競合との差別化が経営上の課題になりやすいといえます。反対に埼玉県や千葉県のように人口あたりの診療所数が少ない地域では、1施設が受け持つ潜在的な患者数は多くなる可能性がありますが、需要に見合った医療提供体制が十分かどうかも合わせて確認する必要があります。開業エリアを検討する際は、この診療所密度に加えて、人口構成や交通アクセス、周辺の競合状況もあわせて確認することをおすすめします。
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クリニックの延べ床面積と患者数の関係を直接まとめた公的な統計は見当たりませんでした。以下の数値は、診察室や待合室の数といった一般的なクリニックの構成をもとにした目安であり、実際の調査データではない推定値である点をご了承ください。
| 延べ床面積の目安 | 診察室数の目安 | 1日あたりの患者数の目安 |
|---|---|---|
| 100㎡未満 | 1室 | 20人から30人程度 |
| 100㎡から150㎡ | 1室から2室 | 30人から45人程度 |
| 150㎡から200㎡ | 2室から3室 | 45人から65人程度 |
| 200㎡以上 | 3室以上 | 65人以上 |
面積が広いクリニックほど、診察室や検査スペースを複数確保しやすく、同時に対応できる患者数の上限が高くなる傾向があります。ただし、面積が広いだけで患者数が自然に増えるわけではなく、動線設計やスタッフの人数、予約の仕組みなど、運用面の工夫が伴って初めて、確保した面積を患者数の増加につなげることができます。
診療科目によっても、必要とされる面積の考え方は異なります。整形外科やリハビリテーションを行うクリニックでは、施術スペースを広く確保する必要があるため、同じ患者数であっても内科や皮膚科より広い面積が必要になる傾向があります。開業や増床を検討する際は、面積だけでなく、実際にどのような診療体制を組めるかという視点もあわせて考えることが大切です。
自院の平均患者数を把握したうえで、実際に来院数を高めるにはどのような取り組みが有効なのでしょうか。すぐに始められるものから、中長期的な視点が必要なものまで、押さえておきたいポイントを整理します。
スマートフォンの普及により、多くの患者がまず検索エンジンやウェブ上の情報をもとにクリニックを探すようになっています。診療内容やアクセス方法、院内の雰囲気が伝わるホームページが整っていないと、興味を持たれても来院にはつながりにくくなります。
スマートフォンでも見やすいレスポンシブデザインのホームページを整備し、検索結果に表示されやすくする工夫を行うことは、患者数を増やすための土台となる取り組みです。地図アプリ上での情報整備もあわせて行うと、より多くの人の目に触れやすくなります。
診療内容や院長の紹介、院内の写真などを充実させておくことで、初めて訪れる患者の不安をやわらげ、来院への後押しにもつながります。定期的な情報更新を続けることも、検索結果での見つけやすさを保つうえで重要です。
近年は交流サイトを活用した情報発信を取り入れるクリニックも増えています。臨時休診のお知らせや院内の様子を発信することで、ホームページだけでは伝えきれない親しみやすさを届けることができます。
インターネット上の口コミは、クリニックを選ぶ際の判断材料として大きな影響力を持っています。良い口コミが多いクリニックは新規患者の来院につながりやすく、逆に悪い口コミが目立つと、実際の診療の質にかかわらず敬遠されてしまうことがあります。
丁寧な説明や待ち時間への配慮など、日々の診療における細やかな対応の積み重ねが、結果として口コミや紹介という形で新たな患者数の増加につながります。スタッフ全体で接遇の意識をそろえておくことも欠かせません。
口コミの投稿を無理強いすることはできませんが、満足度の高い診療体験を提供し続けることで、自然な形での紹介や高評価につながりやすくなります。誤った内容の口コミがあった場合は、サイト側へ訂正を依頼する対応も検討しましょう。
地図アプリ上の口コミ欄は、来院を検討する患者が最初に目にする情報のひとつです。低評価の口コミがあっても、真摯に対応する姿勢を示すことで、かえって信頼感につながるケースもあります。
待ち時間の長さは、患者が通院をためらう大きな要因のひとつです。電話でしか予約を受け付けていないクリニックでは、忙しい患者が予約を取ること自体を諦めてしまうケースもあります。
インターネット予約やオンライン問診の仕組みを整えることで、患者にとっての来院のハードルを下げ、結果として来院数の増加につなげることができます。スマートフォンひとつで完結する予約の仕組みは、特に若い世代の患者に好まれる傾向があります。
予約の仕組みを整えることは、患者の利便性を高めるだけでなく、院内の混雑を分散させ、待ち時間そのものを短縮する効果も期待できます。運用の負担とのバランスを見ながら、段階的に導入を進めるとよいでしょう。
オンライン問診を組み合わせることで、来院前に症状を把握できるため、診察がスムーズに進みやすくなります。結果として1人あたりの診療時間が短縮され、対応できる患者数の増加にもつながります。
新規患者を獲得するためのコストは、既存患者に対応するコストよりも高くなる傾向があるといわれています。そのため、一度来院した患者にいかに継続して通ってもらうかは、患者数を安定させるうえで重要な視点です。
会計時に次回の来院予約を案内する、定期的な検診の案内を送るといった取り組みは、再来院のきっかけをつくり、患者数の安定につながります。既存患者との関係を大切にすることは、新規獲得に注力するよりも効率的に患者数を維持する方法のひとつです。
再来院を促す取り組みは、患者にとって通院の意義を再確認してもらう機会にもなります。無理に来院を勧めるのではなく、患者の健康維持に役立つ情報提供という形で伝えることが望ましいでしょう。
慢性疾患を抱える患者に対しては、定期的な通院の必要性を丁寧に説明することも大切です。継続的な関わりを持つことで、患者との信頼関係が深まり、長期的な通院につながりやすくなります。
患者数は、クリニックが立地するエリアの人口構成や交通アクセス、周辺の競合状況によっても大きく左右されます。開業後であっても、地域の変化に応じて診療体制を見直すことは有効な取り組みです。
周辺の人口動態や競合クリニックの状況を定期的に把握し、診療時間や標榜科目の見直しにつなげることで、地域のニーズに合った患者数の確保がしやすくなります。地域医療情報システムなどを活用した情報収集も参考になります。
立地そのものを変更することは容易ではありませんが、診療時間の延長や土曜診療の実施など、地域のニーズに合わせた運用の調整であれば、比較的取り組みやすい対策といえます。
近隣に新たな競合クリニックが開業した場合や、地域の人口構成に変化があった場合は、標榜する診療科目の見直しや専門外来の新設なども選択肢のひとつとして検討する価値があります。
クリニックの平均患者数は、診療科目や地域、規模といった複数の要因によって決まり、一律の正解があるわけではありません。全国的な目安としては1日あたり40人前後とされていますが、診療科目によって大きな差があることが統計からも確認できます。
自院の患者数を評価する際は、全体の平均値だけでなく、自院の診療科目や立地条件に近い基準と比較することが大切です。そのうえで、情報発信の強化や予約の仕組みづくり、再来院を促す取り組みなど、できるところから患者数を高める工夫を重ねていくことが求められます。
平均患者数はあくまで経営を振り返るための目安のひとつです。数字にとらわれすぎず、地域の患者にとって通いやすく信頼できるクリニックづくりを続けていくことが、結果として安定した患者数につながっていきます。
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